2025年6月にロビンリムが始めたバリ島の無料助産院「ブミセハット」に見学に行ってきました。
ブミセハットはバリ島ウブド近郊のニュークニンにあります。
この記事を書いた人

須代 由紀
Yuki Sudai
飛騨高山出身。2005年よりセラピスト。2017年より産前産後を専門とする。東京と飛騨で、いのちに触れる産前産後ケアセラピストとして活動。暮らしの中の自然崇拝と祈りの感覚を思い出し、その土地の植物を活かして行う産後ケアが浸透することを目指している。

創設者のロビン・リムさんは私が最も尊敬する助産師のお一人です。ブミセハットのことを初めて知ったのは、まだ産前産後ケアをはじめる前。当時通っていた都内のベリーダンススタジオのチャリティーショーの収益を寄付していたのが、ブミセハットだったのです。
バリ島の無料助産院「ブミセハット」とは?





ただいるだけで緊張がほどけ、深く安心できる場所でした
ブミセハットの歴史と沿革





ブミセハットの歩みは、ロビン・リムさんの個人的な経験と、当時のインドネシアの厳しい医療環境を変えたいという強い願いから始まっています。
- 活動開始(1995年頃): ロビン・リムさんがバリで自宅出産した後、助けを求める地元女性たちのために、住んでいる小さな村で産前産後のケアを提供し始めました。
- 最初の診療所設立(2003年): サービスへの需要が高まり、バリ島のウブド近郊にあるニュークニン村に小さな診療所を開設しました。
- 災害救援活動の拡大:
- 2004年スマトラ島沖地震・津波の発生後、いち早く対応チームを派遣。妊婦や乳幼児に特化した救援活動の専門知識を深め、後にアチェに2番目のコミュニティセンターを設立しました。
その後も、2006年ジョグジャカルタ、2008年パダン、2010年ハイチなど、国内外の自然災害時にも出動し、母子のケアを提供しています。
- 2004年スマトラ島沖地震・津波の発生後、いち早く対応チームを派遣。妊婦や乳幼児に特化した救援活動の専門知識を深め、後にアチェに2番目のコミュニティセンターを設立しました。
- 財団設立(2005年): 正式にYayasan Bumi Sehat(ブミセハット財団)として設立されました。
主な実績
ブミセハットは、その無料かつ質の高いサービスにより、多くの人々の命と健康を守り、地域社会に貢献しています。
- 無料の出産・医療サービス: 経済的な理由で医療を受けられない人々に、無料または低料金で、産前・出産・産後ケア、小児科、一般診療を提供しています。クリニックで出産する女性の約80%は、支払いがほとんどできない人々です。
- 出産実績: 設立以来、バリとアチェのクリニックだけで5,000人以上の赤ちゃんの誕生をサポートし、これまでにロビン・リム自身は9,000人以上の赤ちゃんの出産に立ち会っています。
- 包括的なサービス提供: 産科ケアのほか、2012年には年間50,050件の患者ケア、教育、人道サービスを提供した記録があります。サービスには、健康教育、高齢者サービス、奨学金制度なども含まれます。
- 国際的な認知: 創設者のロビン・リムさんは、その功績が認められ、2011年に「CNNヒーロー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。この受賞は、世界中にブミセハットと助産師のケアの重要性を広く知らしめました。



ブミセハットは、「助産師から母へ」というシンプルで効果的なケアモデルを通じて、無料で安全な出産と医療へのアクセスをすべての人に提供するという人権の擁護を実現しています。
ロビン・リム(Robin Lim)について




ロビン・リムさんはフィリピン系アメリカ人の助産師です。「イブ・ロビン(Ibu Robin、ロビン母さん)」として広く親しまれています。
- 動機: 1991年から1992年にかけて、姉とその赤ちゃんが妊娠合併症で、また親友と彼女の出産に立ち会った助産師の死を経験したことが、彼女が助産師になる決意を固めるきっかけとなりました。
- バリへの移住: 1995年に家族と共にバリに移住し、自宅で末っ子を出産した後、地元の女性たちから助けを求められるようになります。当時は高額な病院での出産を強いられる女性が多く、インドネシアの母子死亡率は高い水準にありました。



彼女は「平和は子どもが生まれる瞬間から始まる」という信念を持ち、「思いやりがあり、文化的背景を尊重した、優しく、無料で、女性主体のケア」を提供することで、インドネシアの高い母子死亡率の改善を目指しました。
ブミセハットを訪問見学の感想


ブミセハット訪問の目的
ありがたいことに、ここ数年で素晴らしい助産師さんやドゥーラさん、産前産後ケアセラピストさんなど、周産期に関わる様々な職種の方々とのご縁が広がっています。日本のお産の未来はとても頼もしいと感じられる方々ばかりです。



ブミセハットを訪問しようと思ったのは、日本の次の世代の周産期に必要な真髄を体感したかったからです。
ブミセハット訪問
今回、個人でブミセハットにアポをとり、快く迎え入れていただきました。



100%受け入れていただける安心感をメールのやり取りからも感じることができました!
訪問は午後のお約束。当日はウブド郊外の別の場所で用事を済ませ、バイクタクシーでニュークニンの趣深い細い道を通り抜けると、サッカー場の隣に大きな建物が見えてきました。



想像していたよりも大きな規模とオープンな雰囲気に驚いたのと、遂に奇跡の助産院ブミセハットに来てしまった!という興奮で胸がいっぱいでした。
バイクを降り、遂にブミセハットに入ります。入り口右手には日本から寄付されたという救急車が一台停まっていました。緩く弧を描く階段を上がると、左手に受付、正面にロビーが広がっています。
このロビーでメールのやり取りをしたErmaさんを待ちます。
その間、年配の男性や小学生くらいの子ども達も診察に来ていて、女性だけでなく広く開かれた医療の場であることを実感しました。
受け入れられる安心感
Ermaさんをお待ちする間、ブミセハットに立った感覚を静かに味わっていました。
ただいるだけで、ハートが開き安心していられる場所。そう実感するのに時間は必要ありませんでした。
この安心感はセラピーにおいてもとても重要な感覚です。



この体感を味わえただけで、バリまで行って良かったと思えました。
助産院だけでなく他の医療施設・介護施設でこの安心感を感じられたら、自分自身に起きていることを受け止めやすくなるんだろうなぁ!
しばらく待っているとErmaさんが明るい笑顔で現れます。
まず2Fへ案内していただきました。
その日はパパママクラスが開催されているので、お部屋の隅で見学させていただけることになりました。
2Fの風通りの良い大広間で、10組くらいの方がサークルを作り誘導瞑想が行われていました。インドネシア語だったので、内容は理解できませんでしたが、ただ一緒に目を閉じてそこにいるだけで甘い涙が頬を伝い緊張が解れ、より一層の深い安心感を味わい、自分が真ん中に戻る感覚を味わいました。
のちに、ブミセハットのSNSアカウントに掲載されたその日の写真を見ると、私の座り姿に変化が見られました。
いつもよりも随分と肩の力が抜け、重心が下になっていたのでした。
ペアワークにパパ役で参加


そうこうしていると、Ermaさんが近づいて来られ
「これからペアワークを行うのですが、ママさんお一人で参加されている方がいるので、良かったらペアを組んでみませんか?」と嬉しいオファーをいただきました。
もちろん喜んでお受けしました。
Lさん(仮名)というバリにお住まいの女性とペアを組むことになりました。
ワークをリードしてくださる助産師さんはインドネシア語でお話しされるので、Lさんがそれを英語に訳して私に伝えてくれました。Lさんありがとうございました!
・ママがどんなお産にしたいかをシェアし、パパはただ受け止める
・パパに背中を預け、安心リラックスして一緒に時を過ごす
などのワークが行われ、私はLさんの相手としてパパ役を体験させていただきました。
Lさんに預けられた身体の重みは、じわじわと暖かさと安らぎに変わり、赤ちゃんとこの女性を守りたい!という正義感のようなものが湧いてきました。これはバリの神様が与えてくれた、健やかな男性性の体験なのかもしれないと思い深い感動を味わいながら、ワークを続けました。
まさか、ブミセハットでパパさんの心境を味わえるとは予想外の展開だったので、この時に訪問できたこと、Lさんとペアを組むことができたことなど、諸々のタイミングを許可されたことに感謝せずにはいられませんでした。
周りを見ると、涙を流しているママさんも何人かいらっしゃいました。
セラピストの視座からも、ブミセハットの場のエネルギーは深い癒しが起きやすい環境でした。
あくまで私の個人的な感想ですが、会をリードする助産師さん達の在り方もまた、力強く安心・安定感のあるもので、皆さん誇りを持って一人一人を尊重し、伸び伸びとされていたのがとても印象的でした。


休憩を挟んだ後は、骨盤を動かすダンスやヨガの時間です。
その後はスライドを見ながら、妊娠期のからだの変化を学びます。
月齢ごとにからだで起きていること、ホルモンの作用、すると効果的なことなどの説明がありました。
私はスライドを撮影し、文章を翻訳して理解を進めていました。便利な世の中になったものです。
最後に集合写真を撮り、パパママクラスは終了し解散となりました。
私を受け入れてくださった参加者の皆さん、助産師の皆さん、本当にありがとうございました!




今度はErmaさんから、1Fの各お部屋を案内していただきます。
一般診察室
モグサの香りが漂う、お灸のお部屋
分娩室
妊婦健診の診察室・産後の診察室
産後家族で滞在できるお部屋など
驚いたのは分娩室に外履きのまま入らせていただいたことです。
衛生的にどうなんだろう?という疑問を抱き、帰国後、助産師の友人にシェアしたところ「お産というのは本来自然の中で行われるものなので、大丈夫!という考え方もできるんです」とのこと。なるほど。
どこで出産するかの問いに面する機会は多くありますが、衛生管理の徹底された病院出産がまだまだ染み付いている自分に気付き、出産の本質について考えるきっかけとなりました。
皆さんもぜひ、「病院・助産院・自宅など」出産する場所や方法、それぞれのメリット、デメリットについて考え、自分自身にどんな気持ちがやってくるかよく観察してみてください。そして、自分は何を大切にしたいのか自分自身に何度も何度も問いかけてみてください。できるかできないかは置いといて、一人一人がどんな出産にしたいかを思い描くことは、これからの日本のお産の礎となるはずです。
ブミセハットで受け取ったもの
今回の訪問ではイブ・ロビンにお会いすることは叶いませんでした。
ですが、Ermaさんをはじめスタッフの皆さんと場のエネルギー、そこに集うママさんや患者さん達から、ブミセハットのスピリットを感じることができました。
それは「自分自身が平和で在ること」「一人一人の存在と権利を尊重すること」
私の場合、情熱が過剰になった時に、他者に正しさや答えを求めるパターンがあります。
そのやり方は間違っている、それでは達成できない、うまくいかない、リスクが大きい。など
しかし、本来は一人一人が何を選んでも、それを行う権利を持っています。
どんな状況であっても、平和に存在と権利を尊重すること。
この在り方は、女性が理想の分娩方法や場所を選択する権利にも大いに関わると、私は考えます。
平和な心と自分自身の身体感覚で、偏りなく情報を集め、選択し行動することで、お産からはじまる平和な世界が広がり続けていくのではないでしょうか?












コメント